第29回東京国際映画祭 特別招待作品 種まく旅人~夢のつぎ木~

 農林水産省の若手職員 木村治(斎藤工)は日本の農業を一から作りなおそうと入省した若手だが,今ひとつその理想は遠くなっていた。夏休みを前に,次官(永島敏行)から,どうせ大分に帰省するのなら,途中だろうからと,岡山の赤磐という桃にかけている街の現場調査を命じられる。
 赤磐で案内役にさせられたのが市役所に勤める片岡彩音(高梨臨)である。彼女は市役所に勤めながら兄(池内博之)の遺した桃農園を継いでいる。特に,兄が手塩にかけて作ろうとしていた新種「赤磐の夢」を品種登録することが一つの目標だ。
 彩音は色々と連れ回るが,軽薄とも思える木村に付いていけそうにない。しかも,彼は桃よりもトマトに目がない。ただ,彩音のことが気に入ったこともあってか,彩音の情熱にほだされたのか,徐々に桃にも関心を示すようになる。
 そして,とうとう「赤磐の夢」の品種登録の可否通知が届くのだった。

 監督は青春映画の秀作「チルソクの夏」や大ヒット作「半落ち」の佐々部清。最近彼は地方を主題とした決して大きいとは言えない映画を作り続けている。しかし,その手腕はデビュー作「陽はまた昇る」の頃から一貫して素晴らしい。本作でも安倍照雄の脚本を着実に映像化している。常にきっちりとした作品作りは安心して楽しむことができる。
 彩音兄妹は昔から夢を持っていた。彩音は女優になること。彩音の兄は天文学者になること。しかし,天文学者になろうとした兄は両親の死によって,桃農家を継ぐことになり,その兄の死で彩音は女優の夢をあきらめ,兄が精魂込めていた「赤磐の夢」を継ぐこととなる。 
 一方,木村は出身の大分で苦労して茶畑を営む兄夫婦を見て育った。だからこそ農水省に入省したのだ。実は彼にも他の夢があったのかもしれない。しかし,木村は農業改革を選んだ。彼にはそれこそが夢になったのだろう。
 本作は夢の物語でもあるのだ。

 木村を演じる斎藤工も彩音を演じる高梨臨も常に心の中にもやもやがあるのだが決して暗くはならず,明るい。観ていて,気持ちがいい。周囲に配されている人々も協力的でほのぼのさせてくれる。果たして,こんなにいい人ばかり登場させていいのかとまで思う。でも,そういう映画があってもいいのではないかと私は思う。

 それでも,ラストを大ハッピーエンドには終わらせないところが,またいい。夢は続くのだ。

©2016「種まく旅人」製作委員会

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